企業体の運営について

共同企業体向会計システムJVPACKのご提供を通して、多岐にわたるご質問ご相談を頂いておりますが、JV会計に関する事柄だけではなく、企業体の運営そのものに関する内容が増えています。
地域JVの導入や地方でのJV形態による発注増などが背景にあり、初めてJV工事を受注した、久しぶりのJV受注で既に以前の担当者が退職してしまったと言ったケースも多いようです。
そこで、企業体の運営に関する全般的な内容についてご説明し、実際のJV工事の運用に役立てて頂こうと思います。

企業体の運営方法

JV工事を受注すると、請負契約を締結し、合わせて同時に共同企業体協定書を作成します。
企業同企業体は民法上の組合に相当し、法人としての実体がありません。
そのため、協定書により企業体を構成する各法人の関わりと責任割合を明確にします。

ここまでは受注契約に必須な実務なので問題ないと思われますが、この後の運営に関わる実務が滞ってしまうケースが非常に多いように見受けられます。

企業体は各構成会社の協議によって運営方法を定めることが必要です。
定めるべき内容は、企業体という一つの組織ですので、意思決定のルールからその運営組織、当然施工を目的としますからその体制、人事、労務管理、購買、経理等など工事運営全般にわたります。

これらの内容を取りまとめたものが企業体運営規定となります。
インターネット上でもひな形は無償で手に入りますので、活用されているケースは多いと思われます。
しかし、ここでたいへん重要なのは実際のそのJVに即して検討されているかということです。
ひな形をそのまま流用しただけで実際の企業体運営とかけ離れているケースもよく見受けられます。
規定すら作成されていないケースもあります。
この結果、会計処理に関し税務署からの否認を受けてしまうことにもなりかねません。

構成会社間の協議の結果作成された規程に沿って、エビデンス(証拠、証憑)を確保し、正しく運営することが基本となります。
以下、企業体の運営で重要となる事項を列挙します。

  1. 実行予算、改訂予算の手続きと承認
  2. 購買の手続きと検討、承認
  3. 組織体制図と出向社員給与
  4. 就業管理方法
  5. 資金の調達と支払い※
  6. 企業体参入原価と協定外原価※

※経理に関わる項目は「2.企業体の会計」でも説明します。

こうした事項を明確にせずに工事が進行しているケースはたいへん多いのではないかと思われます。
会計処理においても税務判断においても基準の曖昧な状態では正しい運営とはならず、必ずほころびが生じてしまいます。
構成員会社間のトラブルも運営内容を協議せずに放置したことが一因となることが多いのではないでしょうか。
企業体運営のトラブルは発注者へも迷惑を掛けることになりかねず絶対に避けなければなりません。
JV工事が完了するまで一切の会計報告が幹事会社によって行なわれず、構成会社が大きな迷惑をこうむったという話もあります。

幹事会社は運営方法を明確にし、正しい運営の実施と報告を行う責任を求められています。

企業体の会計

企業体の会計とは、JV工事という会計単位で定められた経理規定に沿って会計処理を行うことです。
JV側の会計と幹事会社の会計と区別がつかずに経理担当者が頭を混乱させてしまうことも多々あります。
まずは、企業体の会計内容なのか、幹事会社の会計処理なのかを判断することが必要です。
企業体においては、当然ですが第一義的には企業体の会計処理となります。

JV会計を難しくしているのが、企業体と幹事会社との会計上のやりとりです。
そのためJV会計の実務で最も重要となるのが、JVの会計と幹事会社の会計との連動をどうとるかということになります。
この会計の連動をきちんと設計し、ルールを明確にすることが、JV会計をわかりやすくするポイントとなります。
実際には、こうした整理をしているケースは少なく、場当たり的な処理を行っているのではないかと考えられます。

このルールを検討する上では、幹事会社の以下の点が大きく影響してきます。

  1. 利用している財務会計ソフト上の制約
  2. 収益の計上基準
  3. 工事の補助簿の体系(工事番号の採番方法と完成時の処理)
  4. 工事原価科目
  5. 工事原価の処理方法
  6. 購買支払システムおよび購買支払いの社内手続き

こうした点を考慮し、JVで発生する様々な処理に対応した自社の処理手続きと計上方法を明確にしていきます。

また企業体の会計という側面からは、経理規定に織り込み明確にしていくポイントとしては、以下の点が重要となります。

①資金調達

従来企業体の資金調達は、毎月々発生する工事未払金等に基づき、各構成会社へ資金原資として出資金を請求することで行いますが、すべて幹事会社が立て替えて支払いを行うプール制も一般的になってきています。
元々は構成会社の倒産等に直面し資金力のある幹事会社が始めた方法ですが、地方の建設会社でも広く採用しています。
全ての資金を立て替えるのではなく、定時支払資金のみを立て替え、現場経費は出資金を行う方法や工事代金も一切分配しない方法、出資金相当分の金利を請求するケースなど多様化しています。
いずれにしても経理規定で明確にして運用する必要があります。

②企業体参入原価、参入収益および協定外原価、協定外収益

どの原価、収益を企業体として参入するか、しないかは規定によって明確にしておく必要があります。
きちんと定めずにトラブルとなるケースも多々あります。
こうした費用、収益を明確にしておくことは、先に説明した企業体と幹事会社との会計連動においても重要となってきます。
発生した後になってどう処理するか困ってしまうということを起こさないためにも発生する費用、収益を事前に明らかにしておくことが大切です。

③立替え費用、収益(企業体参入原価、参入収益)の請求手続き

企業体参入原価、参入収益については、構成会社がどのような手続きでこれらの費用、収益を請求するか明確にする必要があります。
月々発生するような内容であれば原価計算にも影響しますので、承認手続きと合わせて整理し、規定に織り込むことが必要です。

④決算手続き

あまり知られていないのが企業体決算についてです。
本来決算は企業体の重要な承認事項となりますので、確定決算ではなく、工事完成を前に最終原価を見積もり、決算案を作成して企業体として協議し、承認することになります。
こうした手続きを行わずに確定決算書の報告だけで済ませているケースも表向きは多いようですが、実際には水面下での承認を経ているのではないでしょうか。
決算案を作成し、承認するというフローは、原則論ではなく企業体運営としての正しい手続きとなりますし、正しく企業体が運営されているという証拠にもなります。

企業体の税務

企業体の税務における大原則は、企業体は税務主体ではないということです。
つまり企業体を構成する各社がその責任割合(出資比率)に応じた分の所得と費用を各社の税務申告期に申告することになります。
JV工事は比較的大型の工事となるケースが多いために進行基準による計上も多いのではないでしょうか。
そのため、構成各社の実情に対応するためにせめて毎月々適切な会計報告ができるようにしておくことは幹事会社の責任でもあります。

事業として収益を計上することは他の工事同様に企業体においても重要なテーマですが、次に考慮すべきポイントは企業体の税務と言っても過言ではありません。
企業体の適切な運営は、正に企業体の税務処理の適切性を担保するものとなりますし、そうなるように制度設計し運用するということが重要なのです。
形ばかりの規定や運用されない手続きの結果、税務否認を受けたという話は枚挙にいとまがありません。
問題となる個々のケースについてはここでは取り上げませんが、基本は企業体運営の問題に行き着くと考えられます。
企業体運営は、収入や費用の元となるお金の動き、物の動き、人の動きに見合った手続きとそのルールを定めているからです。

収益計上の適切性、算入原価の適切性、消費税の計上等は企業体運営に沿って確保されなければなりません。

JVというとJV会計だけに目を奪われがちですが、以上、見てきましたように企業体運営を全体的にとらえる視点が必要です。
インターネット上にもJVに関する様々な記事が掲載されていますが、間違った会計仕訳や記述も多々見かけます。
JV工事を多く受注する大手の建設会社でも全般的に理解している人は少ないと聞いたことがあります。

JV工事を受注したらまずはJV運営全体へ目を向けることが必要です。

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